『日向さんが話せるように、皆で頑張って助けてあげよう』
[ある日の朝のHRで、女教師が言った言葉が始まりだった。
……そこから始まった、彼女言うところの"特訓"は、もうあまり思い出したくはない。
教室の隅の"喋らない少し変わった子"が、一気に、望んでは居ない形で舞台へと引っ張り出された。
スポットライト代わりに突き刺さる視線で、手も足も口も強張る。
話そうとすればするほどに悪循環が生まれるばかりで上手くは行かない。]
『今日は無理だったけど、明日はきっと大丈夫よ』
[柔らかく励ますような言葉に、──もう頷けない。
耐えかねて、筆談で『どうしても難しいです』と伝えた。
弱音を吐いては出来るものも出来ないと諭された。そんなことの繰り返しだった。]
『……あおいちゃん。先生の言うこと、聞いた方が、きっといいよ』
[理解をしていてくれた小学校からの友人すら、遠慮がちにそう言った。
だんだんと必死さを増してゆく教師の姿に、少しでも喋れるところを見せれば状況も落ち着くのではないかと、そう思っての言葉なのだと今なら思える。
けれど、当時はただ目の前が真っ暗になって、期待にうまく応えられない自分への失望感が増した。]
(@15) 2015/02/07(Sat) 21時半頃