…あ、けどね。真っ黒になったらそれ以上は効きませんからね、新しいの買ってください。私、ここには時々いますから。
一ついかがです?500円ですよ。まあお守りと思って。
…ええ、ありがとうございます。いい事ありますよ。何だって、気の持ちようなんですから…ね。
[半信半疑の表情だったサラリーマンが、にっこりと微笑む露天商の彼女からお守り代わりと勾玉状の白石を買いその場を離れる時―――その表情から疲れが抜けている事に気づいたのは彼女だけだった。
この石は人々の間で静かに広まっている。あるいは商店街の露店で、あるいは宝飾店の宝石の一部として、あるいは雑誌の裏の通販商品として、あるいはどこかの怪しげな路地裏で、あるいは霊感商法やマルチまがいの方法で…
けれど、この石が本当は何なのか、奇妙な事に誰も知らないのだ。……彼女以外は。
彼女は今日も、人々の行きかう御渡市の商店街の一角にいる。]
(@2) 2016/06/13(Mon) 23時頃