『さようなら、先生、また明日』
[背を向け去っていた生徒を見送り、残されたのはコーヒーカップが二つ。
後で洗いに行かねば。流石に、巣穴に水道は引かれていなかった。
持ち込んだポットとインスタント・コーヒー。
水っぽい味も、慣れれば美味い。住めば都、とも言うものだ。
教室で、息苦しそうに佇む姿に、思わず声をかけた。
怪訝そうな表情で、それでも準備室を訪れたこどもに、確かに安堵した。
別に、何をするわけでもないけれど、薄いコーヒーを出して。
『味占めますよ』と、下手くそに皮肉ぶった笑みを浮かべたこどもに、どうぞ、と促す。
気ままにふらりとやって来るようになったこどもはいつも、他愛のない話をして帰った。
その間は自分も、仕事の手を止めて、味の薄いコーヒーを啜った。
随分と烏滸がましいかもしれないが、ひとつの居場所になれていると良いな、と思う。]
(-11) 2015/03/18(Wed) 21時半頃