[花咲ける時期など短いが故に、
己の選んだ手段は朽ちかけた大樹の上に芽吹き、根を生やすこと。
儚く散りゆくことよりも、己が幹を伸ばし枝を張り止まり木となろうと。
そのために足蹴にしたものも、広げた葉陰で萎れた花も、おそらくは少なくなかろう。
宴席の支度が整えられていくのを廊下からゆるりと眺めつつ、人を呼びつけて今宵咲くべき花の目録と寄越させる。
あの丸い指でよくぞという達筆な字で記されているのは、並べられる花の呼び名のみか。]
…夜、光………だと?
[目に留まったその名に、灯火に映える白い肌はサッと殊更に蒼ざめた。
あの頃からは幾年月。あの笛の名手の彼であるはずもない。
そも…このような場所に来られるはずもなく…
いや、追い落としたは…、二度と吹けぬようにしたのは、紛れもなく己。
目録を下男に突っ返すと、
からり、下駄の音は幽鬼のごとくさまよう。]
(582) 2010/08/02(Mon) 14時頃