―オレンジ/過去/愛し子が1人―
[ニコラの具合が良くない事に気付いたのは、行商から帰ってきてからだった。出掛ける時は、うーうー唸りながらも見送ってくれたのに。床に倒れていた彼を抱き上げると、ぐったりとしている。灰色の瞳はノックスを見ない。赤い顔でう゛ーう゛ー唸っていた。流行り病の言葉がこびりついて離れない。]
ニコラっ!
[このままでは死んでしまう。そんなことは耐えられない! 財布だけを掴み、ノックスはニコラを背負い医者の元に走った。街までは遠い。人を避けた事が裏目に出てしまった。
ようやくノックスにも慣れてくれたのに。此れからだというのに。]
神様、お願いだから……
僕からニコラを、拐ってしまわないで!
[姉の家から拐ったように。
誰かの手が後ろから伸びている気がして。必死に走った。
靴が脱げても、足の裏を小石で切っても。必死に必死に走った。]
(526) 2014/11/20(Thu) 23時半頃