― 手術台傍 ―
[男の辞書に譲歩という言葉があったかどうか。
文句はみなまで言わせはしなかった。
先刻まで睨みつけてきていた瞳が滲むのも表情が苦悶に歪むのも、幾らか男の気分を回復させてくれる]
ああ、ちゃんとしおらしい態度も取れるじゃないか。
[両手は自由になっているだろうに、逃れるだけの力ももう無いのだろう。
若しくは舞台上から逃げられないのを理解しているのか。
喉が上下する動きが咥内に嵌めた指に伝わる。
とめどなく毀れる透明な雫が顎から其れを掴んでいる手に落ちてくると、男は唇を寄せてぴちゃりと舐め取った]
泣き顔はまあ、悪くないね。
[そうして不快感を与えていたその指を抜くと、しっかり歯型のついた人差し指には血が滲んでいた]
舐めて。
また歯をたてたらどうなるかは、理解したね?
[指先を口元に差し出して命じる]
(454) 2010/04/05(Mon) 11時半頃