[夜の帳の中、車のエンジン音が静かに響く。自宅への道すがら、少々道を逸れたのであれば。縁側のある、見知った家へと辿り着いただろう。
道の脇へと車を停め、玄関の前に立ち。インターホンを押そうとした指は、すぐにまた降ろされる事となったけれど。]
……、流石に寝てるか。
[丑の刻も過ぎたこの時間だ。あの友人と言えど、起きてはいるまいと。
まさかこの家に、別の客人が来ている事など、男には知り得なかったけれど。
そうして男は手にした紙袋の中から、包みの剥がれた本を一冊取り出し。
家の前のポストへとそれを入れたなら、小さく小さく夜の闇にカタリと音が響いた。]
いっそ、返さない手もあったんだがな。
[踵を返しながら、呟くのはそんな言葉で。あの友人の事だ、物を見れば自分からの物と分かるだろう、と特に手紙の一つも無く。
――今更奴に手紙など、逆に照れ臭いものもあったから。
そうして、扉を閉める乾いた音に次ぐように、車の音は徐々に、徐々に遠ざかっていっただろう。]
(396) 2014/10/07(Tue) 00時半頃