あら。狡いオジサマにひっかかるのも、悪く無いわよ。
……それにアナタ、結局教えてくれたじゃない。
[行き先、と。
吊り上げた唇で、渡された紙片を示す。名と、行き先と。告げられる事は無いと思っていたそれが、今手中にある。……狡いとは思うけれど、やはり。憎みきれるものではなかった。
求めた言葉>>358が落とされなくても、構わないと思うくらいには、もう。彼の気持ちも、"理解"出来ていたし。
交わされる言葉遊びに、指先に触れる唇>>359。それをそっと見守って、自らの名を呼ぶ唇に目元を赤く染める。
"……誰かに名を呼ばれるのは、こんなにも心地いいものだったろうか]
悲劇は訪れない……そうかしら。
……そうだと、良いわ。
[これからの道が、明るいものとなるのなら。……あまり好きではない本名に縋ってみるのもまた、良いだろう。
此方に近付いてくる彼の姿を追って、目前に屈む彼の顔をしっかと見詰めてみせる。
顔を伏せることなんて、もう出来なかった。最後のその時まで、彼の姿をこの目に刻み込んでおきたかったから]
(374) 2014/10/06(Mon) 23時半頃