―回想:まともなころの話―
……なあ、食べないと明日が辛いぞ。
[痩せこけた歳近い彼へ、パン粥を渡してそう声をかける。
食欲がないのか、スプーンを受け取ろうともしない姿が、もう何日も続いていた。
スプーンを差し出し、心配に眉を歪める。
ボサボサで汚れ、痩せた姿はこちらも似たようなものだ。それよりも心配なのは、その目。
自暴自棄の手本のような目を見て、ただ胸には焦燥が込み上げた。
こいつはこのまま死ぬかもしれない。それは、他の奴隷からも何度も感じた予感]
……生きてれば、さ。生きてさえいれば、いつか、
いつか、いいことがあるから。
[それなのに、こんなときに上手い言葉を思い付かない。学がない。逆立ちしてもなにも出てこない。
それが辛くて、ただしばらく口をつぐんで]
……食べろよ。
[スプーンを無理矢理渡して、大きく息を吐いたまともな頭の青年は、今や酒キチガイで。渡された青年は陽気な青年に変貌したとは、なんたる神の悪戯か*]
(371) 2014/12/09(Tue) 00時頃