― 回想:カフェ前にて ―
[それは、一間過ぎ行く白>>338に気を取られたからだろうか。
焦りが脳裏を過るよりも先に、丸くなろうとする鳶色が射止められる>>316。
ダメ元でも表札ぐらい、見ておけばよかった。
そんな後悔を浮かべても、既に時遅しとしか言えない。投げかけられた問いに一瞬、唇を引き締めた後。深い息を一つ挟んでは、仕方なしに口を開き直す。]
――…そうだよ。そういう、お兄さんは? 名前、
[出された名には頷きと共に肯定を示し、逆に問い返す。
同じだけ、こちらも距離を詰めつつも、鳶色は逃げるように赤いフードの輪郭をなぞり、]
(……、動い…た?)
[はたりと瞬き、細められる。首を傾げれば、己の剥き出しのままの鹿角もそれに合わせて傾いたか。
改めて観察すれば、フードの描く曲線は不自然な起伏が二つ、時折微かに揺れていた。連想するは――己をも含む"獣"の文字。
――あぁ、この人が例の犬の人だろうか。
思っていたよりも…、と勘違いとは知らず、想像を頭に広げては、目元を微かに緩め。相手の返事を一寸待った。]
(346) 2014/10/04(Sat) 17時頃