…………、
[――と。
アンティークの棚に置かれたそれに、ジャニスの視線は縫い止められた。
蜘蛛の巣の様に広がる文字盤に、白い蝶がぽつりとあしらわれている。どうやら長針に飾り付けられたゴールドの小さな蜘蛛が、時を刻む度に蝶に近付いていく様だ。長針が12を指す、その時に。まるで蝶に襲いかかる様に、二つが重なる。
決して、趣味の良い物だとは思えなかった。作りもチープだし、本当であれば、贈り物に相応しいとは口が裂けても言えない。
……けれど、気付いた時にはそれを手に取っていた。鎖がじゃらりとてのひらから零れ落ちる。
ネックレスになっているらしいそれは、幾ら小さいといっても"彼"には到底似合わないだろう]
……ま、我慢してもらいましょ。
[ぽつりと小さく呟けば、代金を払って店を出る。
新しい手袋に、綺麗なピンブローチ。そうして、"蜘蛛"のあしらわれた時計。それらを大事そうに身に付ければ、ジャニスはゆっくりゆっくり歩き出した。
――最後に一通だけ。彼へと宛てた便りを電子の波に乗せながら]
(337) 2014/10/09(Thu) 00時半頃