そう言えばもう、あの頃からここで生きておるのは儂一人、か。
[もう誰も自分を通称で呼ぶ者がいない事実。見所があると突然自分の所の取立て屋から少年を匿ったのはいいが、後始末を自分に押し付けたボス。散々嫌味と愚痴をぶつけてきたクリソス氏。肩代わりする金を用立てた『華』の主。
大勢の大人に囲まれて不安げな顔をしていた少年、怒りを露にする父を醒めた目で見ていた娘、少年を匿ったらしく不安げな彼に安心させるようにあれこれ構っていた若い娼婦――その時]
その時、誰かが言ったのだ。
["ルーセント・カインの宝"に関して、あの場所にいた誰かの口から。ほんの雑談として冗句として戯言として他愛のない会話の中に。恐らくは口にした本人でさえも忘れているだろう他愛のない噂話。聞いた傍から忘れる程度の……ただ一人ボスを除いて]
いや聞き違いか、記憶違いだろう。まさか、な。
[そうでなければ、今まで脳裏に描いていた勢力図が引っくり返ることになる**]
(307) 2010/03/18(Thu) 18時半頃