[ヴェラは記憶喪失か、といったが、あながちその節は間違いではない。
事の真実は。
男は確かにヴェラと出会っている。そして破壊の仮面《ペルソナワスタール》と名乗られていることも、間違いなかった。
そしてあの自称魔術師の輩が男だったことも、間違いない。
重魂《デュアル》化の影響とでも言えばよいだろうか、魂が二つになった瞬間に、記憶の混濁が発例するのが、最大の原因。
二つの魂が同居する中で、お互いの意識が融合し、混ざる。厄介なことに、"ひとつ"になってしまう意識の中には、違和感というものは自覚として生まれ得ない。
例えばこの男は稀に「学がない」と発するが、本来知りうることにも疎くなりがちであるのは、このせいだった。
今回もそれと同じに、ちょうど二人の記憶が、ざらりと混ざって入れ替わっていたのだ。
ケヴィン自身、ナシートといた時間が長すぎてその混濁の事象をすっかり忘れていたことも、混乱の要因だっただろう。]
(279) 2012/02/04(Sat) 03時頃