―― 回想:幼い日の思い出――
[木に建物が呑み込まれてる。
それが初めてこの村奥の屋敷を見た感想だった。
青々と茂る木々の木陰は、大きく伸びて屋敷を包み、
後ろに見える森は黒々として周りを囲む。
ざわざわと風が吹くたびに揺れる木の葉は、誰かの囁きに聴こえて。
幼心に、ここは怖い場所だと、感じていた。
だから、幽霊屋敷だとか、お化けを見ただとか、そんな噂が立つんだろう。みんなも同じことを感じていた証拠だ。
なんにもない、長閑な村だからこそ、子供たちは常にドキドキを求めていたのかもしれない。あの高い塔とこの幽霊屋敷は、子供たちの間で肝試しの場所の二大巨頭だった。
この村に越してきて暫くは、肺が弱くて家の中から出られなくて。
漸く発作がでなくなったのは12のときだったか。
村の悪戯っ子たちに混じって幽霊屋敷に忍び込んだことがあった。
今思えばあれは、余所者で未だ村に馴染めない自分を迎え入れる、村の子たちの儀式だったのかもしれない。]
(276) 2015/04/18(Sat) 15時半頃