[ところで。
204号室、もとい『待雪の間』と札が掲げられたそこは、かつては宴会場─といってもそこまでの広さはなく、小規模な団体用の─だったらしく、風呂は当然ながら通常の客室にはあるような設備すらない。
よって、手を洗うにしても用を足すにしても食事を作るにしても、共有のものとして設置されているそれらを使わなければいけない。
ということは、部屋の外に出る機会が多くならざるを得ないわけで。
どうして住むとき間取りをちゃんと確認しなかった、とは今なお自身を苛む大後悔ポイントの一つだが、仕方ない。あの時はとにかく自分も住める格安物件が見つかったのならさっさと契約をして、不動産屋との対話を切り上げたかった。
まあ、食事などは基本、お湯さえあれば作れるカップ麺やら(幸いに湯沸かし器はあったので)、生のまま野菜や果物を齧っているからいいのだが……
──ゆえに、先程反撃を受けて傷を負った手の血を洗い流したくば、共有スペースに向かうほかはなく。]
(274) 2021/02/15(Mon) 22時半頃