[洗面所の一。男には些か低い高さの設えである洗面台、やや背を屈めつつその蛇口に手を伸ばしたところで、かけられる声があった]
っと、
[同時に肩に回される腕。引き寄せるような動きだったが、けれども男が咄嗟に背を伸ばし振り向いた事で、逆に相手をやや引き上げるような形になったかもしれない]
…… 貴方か。
今晩は。あるいは、おはようと?
一瞬、そう瞬きの合間ばかり、何か襲い来たものかと。
絶対の陥穽たる背後、己にだけ見えない己の影、死角という無限の闇。
其処から何か、捕らう手を伸ばしてきたものかと思った。
[腕の主たる姿に、その内心は知らずとも、丁度疎まれる迂遠の修飾で以て語る。
ディーン。女性陣と比べて平均の若い男衆の中では――長老を除いてだが――最年長である存在。いつもよく眠っている、彼にしては早めの目覚めだろうか、などと思いつつ]
(271) 2016/12/02(Fri) 22時頃