しかし成る程、それは実に災難だ。
あの胡椒まみれのイカれた家から皿を避けて此処まで逃げてきたのか……心中お察しするよ。
……"その顔"で嘆かれても、私の同情は半減してしまいそうだがね。
しかし君が"チェシャ猫"ならば、仕方ない。
――そして君は、実に真面目な"チェシャ猫"のようだ。
[ニヤニヤ、ニヤニヤ。声だけは不愉快そうなのに、目の前の"猫"が浮かべて居るのは何とも愉快そうな笑みばかり。
つい先程まで、愉快そうに話しつつも笑いもしない"時計ウサギ"と話していたと思ったのなら、今度は不愉快そうに話しつつも笑みを絶やさぬ"チェシャ猫"とは――嗚呼まったく。この世界は何処まで狂っていると言うのだろう。
皮肉じみた世辞を投げつつ、彼の言う本音には苦笑と共に同情の眼差しを。
しかしそれには先のような皮肉は無い。恐らくは自分と同じ境遇なのであろう――此処が"自分の夢"ならば、それも可笑しな話だが――彼のその心境が、少しは理解出来たから。]
(270) 2015/06/19(Fri) 19時頃