―回想・車内―
[男のポケットの中の携帯端末が震えたのは、三つ目の信号に捕まった直後。
一度だけブルリと震えたそれに、赤く光る信号からふ、と意識を逸らす。]
…少し失礼するよ。
[ミラー越しに、緊張しているらしい少女へと断りを入れ、男は信号待ちの間に携帯端末を取り出してその画面を確認する。
人と居る時に些か失礼ではあっただろうけれど、休暇中に仕事のメールや電話が入る事は、良くある事だったから。
しかしそこに表示された名前に、男は端末機を見下ろしたままぱち、と目を瞬かせはしただろう。
――そしてメールの文章を読んだのなら。ク、と小さく、口の端を歪めはしただろうか。]
(……ほう、これはこれは…楽しくなりそうじゃあないか。)
[先日会うた、彼の事を思い返し。メールの文章を噛み砕くようにもう一度確認すれば、男は端末に指を滑らせる。
そうして、信号が青になるのと。男が端末を操作し終えるのは、ほぼ同時だっただろう。]
(269) 2014/10/04(Sat) 11時半頃