肩を震わせる彼女に僕は首を傾げました。もしかしたら泣いてるのかもしれない…余慶に不安は広がりますが、しかし押し殺したような声に違和感を感じて耳を鋭くしていると、どうやらそれは笑い声の様子。「なんだ、笑っていらっしゃったんですね」まさか僕のことで笑ってるなんて露知らず、的外れに安心したりしました。
「滲み出てるって…不思議だなあ。あなたも、優しそうに見えますけど」
僕は言の葉を送りました。特に意味はなかったけれど、世辞に世辞を返すように機械的に僕は言ったのです。はたして本当に世辞かどうかなんて、きっと言わずとも分かる人には分かるだろうけど。
そしてどうやら僕は眼鏡屋まで送っていただけることになったらしい。石段に足を置いた時に、差し出してくれた手>>173には「すみません」と、断りを入れてゆるく掴まりました。
僕の手は妙にじめりとした空気を冷すほど冷たくも、暖かくもないけれど。まるで人間、哺乳類と同じくらいの体温しかないことには、未だ人間で居られるとまた、安堵の息を。
しかしその肌は、暑さのためか部分的に渇いてもいたりして、それは人として少しだけヘンだったかもしれない、と。生憎気付く謂れもなく。
(256) 2014/10/04(Sat) 05時頃