[そうして。
消えゆく山羊の姿を鋭い眼差しで睨みつけなていたのなら、近くから聞こえた大きな音>>235に、男は思わず瞠目した。]
……そろそろ理解が追いつかない、が。
そいつは……あぁ!出来れば、夢から醒めてから会いたかったよ!
[卵がチェシャ猫を突き飛ばした事なんて、既に男の思考には入って来ない。柄に無く浮かれた口調で――"仕事"の際は、時折こんな声を上げる事もあるが――見た事も無いような怪物の姿>>236。
……否、見た事もないわけじゃあない。どうした事か今の今までそう思っていただけで、その怪物は確かに見た事がある――そう、"本の挿絵の中で"!
素晴らしい、何と素晴らしいのだろう!
夢にまで見たその生物を今こうしてこの目で拝む事が出来るだなんて!
嗚呼しかし、惜しむらくはここがあくまで"夢の世界"だと言う事だ。此処が夢の外であったのならば、男は今以上に歓喜に身を震わせていただろうに。
その生き物と共に宙を舞うのは、あの貴族服を着た"卵"の姿。畜生、何と羨ましい事だ、とまるで子供のような嫉妬を胸にしたのなら、その卵はその場を離れてはしまっただろうか。]
(245) 2015/06/21(Sun) 11時半頃