[一人の使用人が、命を賭して赤子を奪った。
何も知らぬ、何の罪もない子供を、自らの道具とするために。
いつか、奥守の血のものが己を律せなくなるようなことがあれば、それを討てるようにと。
奥守は狼の血を持つ以上、その敵対組織のことももちろん認識していた。
それが綻び。運命の分岐の始まりだった。
幸か不幸か現代は、産みの親なしでも子は育つ。特別健康上の不具合がなければ、なおさらのこと。
長兄にだけ継がれる眠れる狼は、たとえ双子であってもやはり弟には宿らなかった。
秘密裏に《組織》に預けられた子供は、その血に定められた卓越した身体能力と、狼の気配を察する勘の良さで着実に力をつけていく。
狼がその存在を隠して生きるならば、狼を狩る組織もまた、その存在を隠すことに長けていた。
子は、15年以上もの間、奥守の誰にも見つかることはなく、今を迎えた。]
(236) 2018/04/02(Mon) 19時半頃