[初めて会った時からお互い歳も取ってしまったし、何よりアレは大きく変わった。
しかし病床の弱々しい頬笑みは昔と変わらず美しく、聖痕を娘に移した今の彼女であるなら、このまま自分が連れ帰っても何も問題などあるまいと。
…それを行動に移す事は、結局無かったのだが。
昔馴染みの「史夏」が話した言葉は酷く少ない。
面会の時間は随分短く、用件は残された小さな当主についての物が殆どだっただろう。
先に生まれた少女の兄弟は痣を持たず、子供たちの行く末も行きつく先も、部外者たる三黒が知る事は叶わない。
ただ、この先当主としてやっていく幼い娘に関しては、部外者の余所者にも関わる権利は幾つかあって。
長老の爺共の手からは逃れられん。
良い操り人形にされて終わるかも。
この生活の中で幼さを失っていく。
それでも、
出来る限り、外の世界を教えよう。
反抗の手段の存在に気付かせよう。
いつまでも、すこやかであれ、と。
俺の手の届く範囲であるのなら、護り見守っておいてやる。
そう、静かな盟約を誓ったのは、幼い娘の「母親」と。]
(210) 2015/09/17(Thu) 05時半頃