−広間−
[執事ろ、彼に導かれて広間えお出る「お嬢様」の背中を横目で見る。]
……どうぞお休みくださいませ、お嬢様。
白薔薇。こちらの持ち場は、私が。
お嬢様のことは頼みましたよ。
(ああ、またこれだ。
また「主人」達は己ではなく「白薔薇」を選んでゆく。何故だ。何故私は選ばれぬ。何故白薔薇だけがお二人の寵愛を受けるのだ…!)
[広間を包む白薔薇の香が、「黒薔薇」と呼ばれる執事の胃壁を針で刺すように突く。この痛みは悦楽を一切伴わないことを、彼は随分前から知っている。]
……二人ともこの場から退いてしまえば、お客様のことを呼んでおいて放置することになります。そうなれば、我々だけではない、旦那様の名折れとなりましょう。
[広間に咲く白薔薇の花を手にし、にこりと笑う。]
(ああ、この広間に咲く白薔薇の全てを手折ってしまえばどれだけ楽だろう…!)
(204) 2010/06/20(Sun) 10時半頃