―或る過ぎたる昔日―
メルヤが大人になっても幻覚として現れる、24時間で記憶を失くす病に罹った頓狂な男に懐いた切っ掛けは忘れる男だったからだろう。
どんなことをしても、男は次の日には忘れる。
幼くして遠慮を覚えた子どもには、打って付けの相手だとも言えた。]
[幼いメルヤが、病院に訪れて半年ぐらい経った頃だったろうか。
いつも”はじめまして”を交わして、どこからともなく花や、キレイな石を取り出す男がいなくなっていた。
この頃まだ、同年代に近い子どもとの交流を苦手としていた幼いメルヤは探し回った。小さな体で病院内のあちこちを探し回っても見つからなかった。
中庭で体を丸くして蹲る。頭を撫でるような、感触がしてメルヤは、ぱっと笑顔になった。
――『 』
名前を呼んだ男ではなかった。
少年よりもいくつか年上の、少年。トレイルという名だったか]
(188) 2015/06/06(Sat) 03時頃