[無事だった弁当に安堵しながら、無残な姿になった弁当箱を机の上にそっと置く。
実家がパン製造を始めたのは父の代に入ってから。
近隣住民には『あくとのケーキはいつでも美味しい』というのは未だに根強く、パンも美味いと誇る息子としては些か残念な気持ちでもあった。
けれどもその残念な気持ちを払拭してくれたのが、美少年後輩、姪島の存在だった。
彼が入学してひと月経った頃、時折見目悪く廃棄処分のケーキを弁当に持ってくるとの噂を聞いたらしく、昼休みの飽戸の所に姪島が突撃してきた。
有名な美少年後輩の突撃に面食らったものの、形が崩れたガトーショコラをぱくつこうとした飽戸の手先を見るキラキラした目に、肩を竦めてそれを彼の口に入れたのだ。
そうして姪島から出てきた言葉が、彼が落合に告げた>>148時のように、すごい! 美味い!
といったもので]
(あの顔に毒気抜かれたし、ケーキ屋としての看板も大事にしなきゃと思えたんだよなぁ)
(186) 2014/10/01(Wed) 23時頃