[――左手が耳朶に触れる。幼き頃、迷い込んだ城の中庭には深紅の薔薇が咲き誇っていた。あれほど見事な薔薇はそれまで見たことがなく其処が領主の城である事も忘れ見惚れてしまった。薔薇に気をとられたクレアは声掛けられるまでヘクターが傍に居た事に気付かなかった。その存在に驚きクレアは肩を震わせる。勝手に立ち入ってしまったことを叱られると思ったかクレアは男に“ごめんなさい”と謝罪の言葉を口にした。“お友達とかくれんぼしていたら迷ってしまって”“帰り道を探してたら薔薇の花がみえたの”“とてもきれいね”“おにいさんが育ててるの?”事情を説明するうち薔薇の事、相手の事へと興味は移ろう。その日は何もないまま城の外へと送り出された]
(182) 2012/04/28(Sat) 22時半頃