[そういえば彼も、作家だったらしい。
鞄の底で消費されないまま転がっている飴にふと意識を向ける。
「朧」の付箋が貼られた包みは、開いてみれば原稿用紙だった。
今のご時世にアナログな……と目を丸めたのもつい先ほどのように感じていた。判子すら電子の世界に生きる女にとっては読書感想文ぶりの再会である]
(何して食って行ってる、とか。
びっくりするほど。
考えたこと、なかったな)
[其々、声質の違う3人がブースへと入れば
意識を現在へと引き戻しじ、座った両足を揃える。
台本を開き、時を待つ3人の女性。
ああ、『演じ慣れているな』と感じたのは、
ブザー音と共に、目の色が変わったように見えたから。
喉が震え、世界が紡がれる。
ガラスに隔たれた向こう側が、空気の色を、世界の様相を変える。
台本の表紙に刻まれた二文字は、『軌道』。]*
(178) 2021/02/17(Wed) 18時半頃