[問い掛ける言葉を探すうちに、>>166彼はこちらに背を向けて歩き出す。
結局ディーンは口を開かず、その背中が遠ざかるのを眺めているだけだった。それから、気遣わしげにベネットに視線を向ける。
自分の作品が貶されることには慣れている。作品にはもれなく、評価が付きまとう。しかしそれはあくまで、作品に対する評価に過ぎない。
しかし歌声の評価は、自身の評価にも繋がる。それを否定されるというのがどういった心地であるのか、ディーンは想像出来ない。
ディーンが旅芸人であった同行者の生業を継がずこの道を選んだのは自らの判断だ。楽器も弾けるが金を取れるほどのものではなく、芝居や芸は身につくまでにも至らなかった。何より、あの楽しげで美しい舞台の上は、自分には遠すぎた。
眩しい光と割れんばかりの拍手喝采の音は、今でもディーンの記憶の中に残っている。――そこに抱く憧憬と、嫉みも。]
……下の様子を、見てくる。
[そう告げて、ディーンは階下に繋がる階段に向かった。]
(176) 2014/11/12(Wed) 11時頃