[手に触れた彼女の形の良い唇から上がった、小さな小さな悲鳴>>169。男はそれを聞いたなら、彼女には解らぬ程度にす、と目を細める。
――チキ。下げた方の手の指の爪を、ほんの、ほんの小さく鳴らし。その音は、エンジン音に紛れてきっと彼女の耳には届かない。
…嗚呼だけれど、"別に何をするわけでもないのだよ"。
男は、自分の事を話す事を好まない。
"自分を知られる事を好まない"。]
…君が折角くれた"お友達"だからね。
そのお陰かどうか、今日のサボテンは些か元気がいいように見えたよ。
[そんな言葉と共に差し出した本は、どうやら受け取って頂けたようだ。手に触れないように本を引くその細い指を見送りながら、男僅かに僅かに細めた目は、彼女には気付かれはしなかっただろうか。
そうして、次いで投げられた誘い>>170に、男はふむ、と思案する。
お礼が大学の食堂と言うのは、些か考える所ではあったけれど。しかし彼女を見るに、遠慮している風でも無い。
ならば此方の希望を通すより、彼女の希望を聞き入れるのが得策だろう、と結論付ける。]
(175) 2014/10/03(Fri) 22時半頃