(……割引券。)
[さぁどうしようか、と思案していた所で、男は少女の零した言葉の一つを拾い上げただろうか。
チラ、と手にしたサボテンへと視線を移せば――嗚呼、やはり。外から中へと丹念に織り込まれたそれからは、"割引券"なんて判別などとても出来そうに無い。
その事に気付いたのなら、男は預けていた背を持ち上げ、さも申し訳無さそうに眉を下げては見せただろうか。]
勘違いをしてすまなかったね。
……あぁ、だけれど君は、とても目が良いみたいだ。
私はコレを見て、割引券だとは気付かなかったよ。
[少しだけ驚いたように目を見開いて見せたのなら、僅かに首を傾げて彼女の様子を伺うように視線を投げる。
解こうかとも思いはしたのだが、綺麗に折られたそれを解いてしまうのは何だか勿体無いような気がして。
仕事中の彼女を長々と引き止めるのは少しだけ気は引けたけれど、あと少しだけならばこの珍しいお喋りを続けても構わないだろうか――"さて次はどんな風に誤魔化してくれるのだろう"、なんて腹の底では微かな愉悦を感じながら。]
(146) 2014/10/01(Wed) 20時半頃