扉は鍵がかかっていると思うのだけど。
実はね、一つだけ、鍵のかからない窓があるの。
[こっちよ、とフィリップの手を引いて。内緒よ、なんて口の前に人差し指を立てて、問題の窓へと案内する。
ほらね、と窓を開けてみせれば、フィリップは先に窓枠を乗り越えて、私の引き入れてくれたかもしれない]
……懐かしいわ。
[大きな家具は、ほとんどそのままになっていた。こんな森の奥の家から、わざわざ持っては行けなかったんだろう。
リビングで足を止め、テーブルの埃を丁寧に落とした]
いつか、見つけてもらえますように。
[そう呟いて、テーブルに置くのはかあさまへの手紙。
いつか、私がここを訪れると、かあさまならきっとわかってくれると思うから。
かあさまが、私の痕跡を見つけに、ここに来てくれることもあると期待して、私は一通の手紙を残す]
“かあさまへ。
私は今、とても幸せです。
マユミ”**
(143) takicchi 2015/07/21(Tue) 18時頃