宇宙では、別に鱗の生えた人間くらい珍しくも無いとは解っているんだがな。
[何しろ獣人も軟体生物も毛玉も...キョンシーまで普通にバーに出入りしているのだ。今更誰が驚く筈もない。と、小さな温泉のほとりで服を脱ぎ捨てた男は苦笑した。
手の甲から始まる赤い鉱石の鱗は、右の肩口までを覆っている。]
ただ、うっかり噂がいらん場所に届くと厄介でな。
つい、警戒してしまうというわけさ。
[湯に浸かって、男は深い吐息と共に、右目にかかった髪も掻き上げた。湯煙にも曇らない眼鏡の奥、右目のあるべき場所には、そこだけ、仄青い天青石色の鉱石が光っている。]
鱗自体は先祖返りの一種らしいが、この色の組み合わせが吉兆だの凶兆だのと騒ぐ自称血族という連中が面倒なんだ。
俺はただの、商人なんだがなあ...
[一度殺された、という話も、その面倒の延長とは知れるだろう。*]
(138) 2022/08/16(Tue) 23時半頃