――そういうの、女の子にやった方がいいんじゃないの。
[ 俺がお姫様に見える? と呟いては、慈しむような視線に顎を浮かせる。恐らくこちらを揶揄っているんだろうとは思って、それならと恭しく伸ばされた手を――取った。
硬く握られるそれに息を飲むのも一瞬に、負けず力を込めれば、相手の手を身体ごと引き寄せる。体格では当然やや劣るものの、急なそれに怯ませる事くらいは出来ただろうか。
冗談めいた笑みは浮かべたままに。成功したならば今度は自ら顔を近づけ、失敗したならばただ手は取ったままに告げるだろう。]
名前教えてよ、お兄サン。“恋人”だろ。
[ 小さな、という形容詞は省いた。知らないままじゃ家柄を嘆く事も出来ない、と言い含める。
握った手は離す気も離される気もなければ、握り返されるそこにただ視線を和らげ、やがては大通りへと足を踏み出しただろうか。]
(136) 2014/10/01(Wed) 20時頃