― 海辺 ―
[日が昇り、昼が近づく。冬の晴れ間はまだどこか薄暗く感じた。空が近いからだろうか。潮風に流れていく千々の雲を眺めながら、海沿いの道を歩く。観光スポットからはやや外れた場所だからか、車通りはないに等しい。
そんな外れの砂浜に人影>>84があれば、嫌でも気づくというものだ。木を隠すのが森の中ならば、人を目立たせるのは無人の砂浜だろう。
思わず足を止め、元来た道を戻ろうかと爪先に力を込める。しかし目的のコンビニはこちらにあるのだ。商店街のカフェにしようか。逡巡と躊躇は傍目に見れば一瞬だった。]
……ハァ。
[足先は前でも後ろでもなく、斜め前へ向く。長らく磨かれていない革靴が、砂浜へと沈んだ。]
木登りの次は寒中水泳でもするの。
[十歩は離れた場所から声をかけた。もし波の音にかき消されるようならあと一歩、もう一歩。半分の五歩にでもなれば、声だけでなくタバコの匂いが存在を伝えるだろう。
マフラーを巻いて、コートのポケットに両手を入れて。革靴に収まった両足を踏みしめたまま、素足のデキるオンナを見下ろしている。]**
(129) 2021/02/14(Sun) 20時頃