『うぇぇ……ひっでェ』
[赤い海一面に広がる死の気配。
澱んだ生命が、胸を焼くように重い。
沿岸、交戦の音が聞こえる。
誰かがあの女とやりあっているとでもいうのだろうか。
意識を向けかけていた所で、背後から休むべきだと声がした。]
――そうだな。休むなら、今しかない、か。
[匣が開く前に浄化の焔《クレマツィオーネ》にさらさねばならぬのなら、冷徹な話開いてしまった匣に手を出すことは出来ず。
その匣について知りうるかもしれないヴェラに接触するのも、今は難しい。
ならば、直接襲われる相手を認識していない今が休息には適切だろう。
事実、幾度かの具現化に疲弊しているのか、ずいぶん龍《ナシート》も口数が減った。
オスカーの同意も得られるようなら、休めそうな場所を探す。
眠る際には、太陽無きこの世界の闇に影たる龍はゆったりと広がった。
その眠りを狙う者がいるとは、まだ知らぬままに**]
(126) 2012/02/07(Tue) 02時頃