[飛び掛かり押し倒した女の腑を生きたまま喰い破る。
その所業はきっと、子供が見るには凄惨に過ぎる光景だったに違いない。辛うじての救いは、その食事は路地裏の影の中でだったこと。
月の光は届ききらず、微かな陰影の違いで、何が行われているかは明確に分からない。]
[全てが終わった後、路地の影の中で狼が立ち上がる。
否、人が立ち上がる。…“ライカンスロープ”だと知る機会はその時か、似たような事件の話からだろう…。
人のシルエットが、ふらりと半身を捻り振り向いた。
眼差しは金のまま、何かの物音が聞こえたかのように。
瞬きひとつせず見開かれた双眸から、何かが零れる。
涙だったのか、浴びた血の一部か。シルエットだけからでは分からない。
だけど、狼はどっちでも構わなかったに違いない。
魔眼の虜で無くとも、その頃にはきっと、狂っていたに違いないのだから。
人の味を覚え、外道に堕ちた獣を救うものは、悪魔か聖女か、…或いはどうしようもないくらいの…人間くらいだ。]
[再び、人のシルエットは狼に戻り、路地裏から狼は去る。後に残されたのは……**]
(125) 2015/01/18(Sun) 02時頃