― 明くる夜 ―
[私はその扉に手を伸ばした。鴉の翼を模した取っ手の片翼、かつては宝飾の煌めきを具えていたのだろう、今や黒く朽ちた骨めくそれへと、指を添えた。そして ]
…… ん。
[ふと耳殻へ入り込んだ微かな音に、顔を上げる。
机の真上、窓を閉ざす厚い黒のカーテン。其処に止まった蝿を見ると、座ったまま手を伸ばし、とん、とそれをつつき落としてやった。
――尚、男は網トンとやらについての知識は得ていない。見落としたのでも無視したのでもなく、そもそも、該当SNSに関わっていないからだ。
男は携帯機器などを持っていない。ただ数代前の固定電話を部屋に置いているばかりだ。ちなみにそうして男がデジタルから距離を置くのは、取り扱う自信がない、というのではなく、趣味と、
連絡手段を増やしたくないというのも、まあ、ある]
(117) 2016/12/03(Sat) 23時半頃