― 三等車 ―
……これはまた、随分と。
[言葉の通じぬ異国の地の、数少ない良い面のひとつだ。
つい口の端から漏れた独り言が、聞きとがめられずに済む。
二等車と三等車の境で、男はほんの数秒、自失していた。
それは旅客列車というより、肉の詰まった箱というべきだった。
ただ、それらの肉が、生きて呼吸し、服を着ているというだけのこと]
……乗車率120%……いや、もっとか?
[これは、人が『みつしりと詰まつてゐた』とでも評すべきだろうか。
だが、吊革だけの車両は、大量輸送という観点のみでいえば、効率的ではあるだろう。
つまるところ、交通機関としての鉄道の輸送量は、車両の床面積と旅客ひとりの占有面積で定まる。
旅客の疲労を度外視するなら、あるいは度外視できるほどの近距離輸送なら、なるほど、この三等車両も視るべきものはある――]
(115) 2015/11/30(Mon) 00時頃