[ザックを抱えて段を昇りきり、
そのまま誰にも呼び止められなければ
もたもたと走って三等車両に向かう。
搭乗口は二等車両と三等車両の間だった。
一等車両の尾にも出入り口はあるが
そこには現在鍵が掛かっているらしい。
理由は簡単、検札の単純化と不正防止の為だ。
子供一人の夜行列車旅。
どう捉えても奇特に見られる状況である事を、少年は理解している。
この切符は、彼が買った物では無い。
少年が、『選んだ』物だ。
出稼ぎ帰りや炭坑勤めの労働者達で犇めく三等車両は、少女や貴人には近寄る事すら難しい物であるが、背丈の小さな少年であればそれは別。
壁際に寄りさえすれば、そこに凭れて十分な休息を得る事が出来るのだ。噎せ返る様な息苦しさも、言い換えれば密度のおかげで身体が冷える事が無い。
気にかけられさえしなければ、おあつらえ向けの隠れ家な訳だ]
(114) 2015/11/28(Sat) 20時半頃