─丘の樹のふもと─
[声を掛けられる>>97まで背後の気配には気付かなかった。
よく分からない耳鳴りで風と音がしんでいたから。
裡に戻ってくる世界。感覚。
この声音は雪客か。羽根蛇を撫でていた手で頬を拭った。
情けなさすぎて──こんな顔は見せられない。
白蛇を左袖のなかへと戻し、背を向けたまま立ち上がる]
……いや、迷惑とかは思ってない。あんがとな。
まあ、今ちっと見せられるような顔してねーから。
少し……。
[困ってはいるかも知らんが、という言葉は形にならない。
できることがあれば。ちからになりたい。
告げられた言葉を咀嚼する。それはおれがいつも思っていること。
神としての存在意義。伝達と移動を司るおれの。
だから、雪客がそう思う気持ちは──とてもよく分かるのだ。
右袖で目元を拭った。
振り向けないから彼女の異状にはまだ気付いていないけれど]
(111) 2013/08/14(Wed) 18時頃