[ もう一度深々とお辞儀をした二人がステージ脇で待つ父親達と兄の元へ走り降りるのを見送って、息を吐いた。顔を上げれば空には僅かに欠けた白い月。
篝火に覆いがかかって、ステージが一段暗くなった。
椅子に座ったまま、唇を開く。独唱を。]
――晴れのこの日 丘に咲く 風の吹く ――
君よ 風に舞い 歌い
花よ 風に歌い 揺れて
祈ろう 君の 美しい舞いを もう一度
祈ろう 君と 美しい調べを もう一度
[ 本来はテンポの速い長調の、明るい舞曲。
澄んで高く伸びる声は、時折細く掠れて空気を揺らした。
臨月なのだから無理をするなと止められたが、娘達の舞いの為の歌と、この鎮魂歌だけは、と。]
――晴れのこの日
花よ 風に踊り 丘に咲く 花よ どうかもう一度
[ 夏至の夜、赤毛の歌い手は月に詠う――*]
(107) tayu 2010/07/11(Sun) 23時頃