―ウォーレンの工房―
[カルヴィンに誘われるまま二人で工房まで来たものの、中までは入らず、外から様子をうかがっていたトニーに、カルヴィンがふり返って舌を出した。>>92]
…だから無理だっていったろー?
ウォーレンじいちゃんがくれるはずないってさー…。
[ウォーレンが2人分のパンをカルヴィンに差し出したところを見ると、トニーがついて来ていることはとっくに見抜いていたのだろう。
その上、カルヴィンから合図を送られては、いつまでも隠れているわけにはいかない。
おずおずと顔を出した。
トニーはウォーレンが少し苦手なのだ。
昔から悪戯をして散々怒鳴られたのもあるが、彼は孤児だった自分を拾って育ててくれた、人間族の老人に、どこか似ている。
頑固で厳しかったが、決して冷たい男ではなく、生きる術を懸命に教えてくれた存在。
トニーは彼を畏れつつも慕っていた。
だからこそ、2年前に彼を喪ってからは、なんとなくウォーレンとも距離を置くようになった。
自分を育ててくれた老人を思い出すのが辛かったから。]
(103) 2013/11/17(Sun) 21時半頃