−大通り−
[天国と地獄、その名の通り戦場で舞うように戦い、夕陽と返り血で真っ赤に染まり死屍累々の中に一人立つ彼女に声をかけたのははるか昔のことのように思える。その姿はまるで神話でみた戦女神のようだった。
父ではなく、初めて自分に仕えると忠誠を誓ってくれたのがコリーンだ。幾度か肌を重ねたこともあれど、自分の欲の為でそこに特別な感情はなく。それは何も言わず応じてくれていた彼女も同じだったはずだ。そこに愛なんて綺麗なものはなかっただろう。
争いが絶えないアウストでも、幾度か部下による裏切りはあった。誰が敵で誰が味方かなんて一日で入れ替わる、そうは思っていたが、どこかで彼女は、コリーンだけは裏切らないなどと思っていたようで。本来ならば裏切りなど何とも思わないはずの自分の胸がわずかに痛みを覚えるのは、きっとこの平和ボケした国に長くいすぎたせいだろう。自分も甘くなっていたのだなと、自嘲気味に笑った。]
コリーン、君は俺のこの手で殺してあげるよ。
それまでせいぜい君の王子様を大事にしてあげるといい。
[ぼそりと呟いた声はひどく冷たい色を帯びていたが、人々の雑踏に消され、誰の耳にも届かなかっただろう]
(98) 2011/11/12(Sat) 20時頃