『 …らしくん。――ごじゅうあらしくん! 』
そんなある日のこと。常と同じように日差しに微睡んでいた耳を煩い音が叩いた。
臨也の意思とは関係なく、覚醒を強いようとするその声。…女の声だということは理解する。何処かに幼さを残したそれは、きっと教師のものではないだろう。聞き覚えも、無かった。
それに、臨也の名前はごじゅうあらしではない。……そう読めなくはない姓ではあるが。
漆黒を覆う目蓋を気怠く持ち上げれば、春の日差しが眼球を撫でて何度か瞬いた。
陽光が眩しい為に常は開ききりの本を顔の上に被せて置くのだが、今はそれがない。
そして、それが、臨也を覗き込んでいる女の手にあると知った時、臨也は露骨な舌打ちをした。
「 ――…俺に、何か、用? 」
誰か知らないが、「センセイ」の差し金だろうか。――堪らなく、気に入らない。
感じる不快さを隠そうともせず、ぶっきらぼうに問いかけ、臨也は眠気の残る半眼を眇めた。
(98) 2015/02/04(Wed) 05時半頃