―雨の境界線を抜け出した狼―
[遅かったか……と、狼は思う。
目に映るのは、馬のない倒れた馬車と、枝で作られた十字の墓>>74。
無理はない。濡れた体で雨の境界線まで立ち戻り、この場所まで戻ってくるのは至難ではあったから。
急いで向かってきたつもりだったが、予想以上に水気を吸った体が重たくなっていたのかもしれない。
上に乗せられた帽子の臭いをかぎとり、それが魔法使いではない、普通の人間のものあったことを確認する。
こんなところに来たがる人間が、あまりいるとは思えない。
その上、地面を穿ち>>69、魔物の血の臭いが残された>>71、戦闘の跡。
自分と同じように、要請を受けた魔法使いが馬車で向かってくる途中での、惨事違いない。
災難だったな。狼は濡れた体でお座りをして、墓標の帽子に頭を垂れた。
だが、幸いなのは魔法使いの方は大きな怪我なく、要請の地に向かっているであろうこと。
血が洗い流されないこの場所に、魔法使いの血痕は残っていないのだから]
(98) 2013/06/11(Tue) 01時半頃