─ 医務室/あるいは夕焼けの記憶>>63 ─
[医務室の窓から見える夕焼けの色を、まるで傷口から溢れた血のようだと思ったのは、ラルフが中等部三年の時の事だった。忘れるわけがない。あの忌むべき事件の直後──。
夕焼けの色だけではない、人気の無い旧校舎のトイレ。脅迫されて手を付かされた水道管に滲んだ水の手触り、手首に絡んだタイの布地の感触。一方的な行為が終わるまで、両眼を見開き、数え続けていたタイルのひび割れ、すべての事柄を鮮明に記憶している。
なんの施しもなく強要された屈辱的な行為だった。
それの質量と臭いに喉が詰まり、呼吸を奪われる恐怖と生理的な嫌悪で涙がこぼれてしまった。柔らかな粘膜と裡を引き裂かれる痛みの中、ラルフに出来た事は、ただ排出に使用される器官に、魂を持たぬ存在になろうとする事。悲鳴をあげて、赦しを乞わぬ事。自分が無力な獲物なのだと認めまいと。けれども、それは叶わず、自ら砕く自尊心。]
(96) yummy 2010/09/13(Mon) 19時頃