[思い出すのは、ラルフの身に起こったあの事件の事。行為の最中サイラスは、中等部時代のラルフとは異なる事を感じていたのだろう。
サイラスから漂う朽ちた薔薇の濃密な香りに、目眩い。薔薇に意識を侵食され、タナトスの衝動へ強制されるような苦痛を感じながら。昏睡状態のサイラスの片側を担ぎながら、一度ラルフは、ディーンに首を傾けて微笑んだ。]
──……
ねえ──もしも、俺が、
その最中に、サイラスの意識があれば、
意識がある時に足を踏み入れていたなら。
一瞬の
躊躇もなく、
サイラスを突き刺したと思う。
ラルフ・アイヒベルガーは、
そう言う人間なんだ。
[ペーパーナイフで人を殺すのは困難そうだけれどと、告白するラルフの銀灰色の瞳は、ベネットに醜いと言った時よりも、激しくそして冷たい色を宿す。ディーンの視界が以前と異なっている事に気付くのは、何度目に見詰めあった時か。──医務室に運び終えたサイラスは、ユーリィの隣の寝台へ**。]
(95) 2010/09/08(Wed) 05時頃