[見えぬ力――風に似た、しかしそれよりずっと鋭く疾いものが、妖の根を一瞬にして全て斬り裂いていた。
指先を伸ばした枝もまた、旋風のごと渦巻く力により近付くを阻まれる]
なんだいこれ? あんた一体、何者だい?
[男が纏う力は妖気のそれではない。
しかし人の身にそのような力が宿るなぞ、その時まで樹怪は知らなかった]
『退魔師。聞いたことはねえか? お前みたいな妖を祓う人間だよ』
[男はその力で持って、樹の根が届かぬ高さまで舞い上がり、なおもこちらへ声を寄越す]
初耳だねぇ。人間があたしを祓う? 馬鹿げた話だよ。
[答えながらも、内心は冷えていた。
林の内は己が領域。だのに油断を抜きにしても、相手に力が通じる気がしない。
自分を倒そうと挑みかかる者は、今までにも数多いたが、このような感覚は初めてのことだった]
(94) 2015/02/09(Mon) 20時半頃