―― 山奥の館へ ――
はい、ありがとうございました。
支払いは後日局の方へ請求書を。
[そうは言いますけれど、こんな時間にこんな場所への運行をさせてしまった手前もありますので、チップをいくらか握らせまして、礼を言いました。少し時間がかかる筈ですが、本日中には帰路につく予定でしたので、そのまま待ってもらう手筈となっています。]
――さて
[鞄の中身を今一度確かめてから門をくぐります。雑草の処理もされておらず人の手が入っていないように見えますが、大変なお得意様であると聞いているのでさして気にすることもなくそのまま扉を叩き、開くのを待ちながら頭を下げました。]
――……?
[さすがに十分も経てば、様子がおかしい事に気づきます。
自分で入ってこいということでしょうか、九十度に折った体を正してから]
失礼致します
[一応とばかりにひと声かけて重たい扉を開きました。
それと同時くらいでしょうか、私を待っているはずの馬車の馬が、嘶いたような気がしたのは――。]
(91) 2016/10/07(Fri) 22時頃