[気晴らし、とはいっても、賑やかな方へは足は向かわない。こうした時、男は静寂の方を求める質だった。袈裟を取った地味な法衣姿で向かうのは、村の外れ。
人通りのごく少ない其処を、男は時折訪れる事があった。行き詰まりや悩みを抱えた際、それを一人解消するために。解消まではいかずも、少しでも落ち着かせるために。
其処にはある建物があった。
廃屋となった建物。かつてはある種の教会、礼拝堂だった、もの。それが、男の親しむ場所だった]
…… 、え、
[軋む扉をゆっくりと開けて、一たび、瞬く。
いつも無人であるその内部に、予期せぬ人影が、見えたから。見間違いか。そう、一瞬、思う。だがもう一度瞬きをしても、その人影が消え去る事はなかった]
……、君は?
[扉を片手で押さえたまま。
赤い夕陽を、背に浴びながら。
見慣れない少女の姿に、男はぽつりと*訊ねかけた*]
(89) 2013/12/05(Thu) 01時半頃